『あっ、すっかり忘れていた!』『勘違いで間違えていた…』
こんなうっかりミスが多く、『看護師向いていないのかな』『仕事がしんどい』と悩んでいる看護師さんは多いのではないでしょうか。
ミスが続くと『またミスをしてしまうんじゃないか』という不安が大きくなったり、自信も喪失しますよね。
また看護業務でのミスは患者の命に関わることも多く精神的プレッシャーは大きいものです。
うっかりミスが起こるのはのあなたの記憶力や注意力、判断力が低いからではありません。
そもそも人間の脳というのはミスを起こしやすい仕組みになっているのです。
その他にもミスが起こりやすい環境や状況もあります。
自分を責めるのではなく、そんなミスのメカニズムについて知り、具体的対策をすることで自信を持って働ける参考になれば嬉しいです。
ミスの原因とメカニズム
ミスと人間の脳の仕組みには深い関係があります。
私たちの脳はたくさんのことを覚えていられると思っているかもしれませんが、実は限界容量があり思いのほか早く忘れる仕組みになっているのです。
記憶には〈長期記憶〉と〈短期記憶(ワーキングメモリ)〉というものがあります。
長期記憶:覚えるのには時間がかかるが長期的に多量の情報を保存できる記憶
例)自分の名前、お箸の持ち方、看護師なら血圧の測り方など
短期記憶:覚えるのは早いが一時的で少量の情報を保存している
例)一時的なパスワード、初めて会う人の名前、看護師なら口頭指示など
ミスに大きく関連してくるのがこの短期記憶なのです。
短期記憶はすぐに、そして明確に情報を記憶してくれる優れものなのですが、記憶容量はとても小さいです。
新しい情報が入ってくると古い情報はすぐに脳から追い出される仕組みになっています。
短期記憶が貯蔵できる情報は7つ前後(7±2)と言われています。
最近の研究では、さらに少ない4±1という説も出てくるほど数が限られているのです。
さらに時間でいうと15~30秒程度のものしか記憶できません。
試しに次の文章を読んでみて下さい。
患者さんの血圧測定を行っていると、先輩看護師の山田さんから『小林まり子様(患者)の長男から電話が来ているから対応してほしい』と言われました。電話対応に向かう途中の廊下で後輩看護師の後藤さんからも声をかけられ『鈴木先生が本田さん(患者)のバイタルと食事摂取状況を知りたいと話していましたよ』と教えてくれました。小林さんの電話に出ると介護保険の相談がしたいのだけどどうすればいいのか?という内容でした。電話を切るとナースコールが鳴っていたので201号室の吉田さんのもとに訪室しました。
さて最初何の業務をしていたでしょうか??
色んな人の名前や用件が頭の中でぐちゃぐちゃになり、すごくたくさんの情報が詰め込まれた感覚になっていると思います。自分が最初に何をしていたか思い出そうとしても、すぐに思い出せない人もいるでしょう。
それほど短期記憶には限界があり、負荷もかかっているのです。
上の文は病棟で働いていたらよくある状況です。
ということは私たちは日常の中で短期記憶をたくさん使いながら、そして忘れながら働いているのです。これがうっかりミスに繋がっているのです。
人間の脳は忘れる仕組みになっているというのを理解した上で、問題はじゃあどうしたらいの?ということです。
どうやったら忘れないようできるか、ではなく、どうやったら忘れっぽい特性をフォローできるか。この考え方にシフトチェンジすることが重要なのです。
ミスの種類別解決策
ミスには4つの種類があります。
- ①メモリーミス
- ②アテンションミス
- ➂コミュニケーションミス
- ➃ジャッジメントミス
それでは各ミスの事例とその具体的解決策を紹介します。
ミスの種類①メモリーミス 記憶が原因そのもののミス
例 ・患者さんから頼まれていたことを忘れていた
・メモ用紙や書類をどこに置いたかわからなくなる
解決策
具体的解決策
事例:患者さんに『後で頭を洗ってほしい』と頼まれていたことをすっかり忘れていた
・その時点でスケジュール用紙に実施時間を決めて書き込む
・スケジュール用紙を持っていない時はテープにメモ書きをする
スケジュール用紙は常に持ち歩けないのでナースバックやポケットにマスキングテープや医療用テープをひとつ必ず入れています。
そのテープにメモして腕に貼っておくのです。そして詰め所に帰ってきたらスケジュール用紙に貼りかえる。
・洗髪セットを患者さんのテーブルに準備しておく
メモではありませんが、思い出すきっかけとなる目印です。
これは何か思い出すきっかけとなるものを作っておく作戦です。
洗髪をしようと思ったら15分程度は時間がかかりますが、洗髪に関するものを置くだけなら数十秒~数分でできますよね。
例) ・注意散漫となり仕事が進まない
・Aさんの記録カルテをBさんのカルテに記載していた
例)・説明したつもりが説明不足
・理解した内容が相手の意図とは違った
コミュニケーションミスを防ぐ大前提は、相手と自分の考えていることは違うという事を頭に置いておくことです。
解決策
ミスの種類➃ジャッジメントミス 判断が原因によるミス
例)・勘で判断したことによるミス
・その場の雰囲気に流されてミスする
何かを判断する時に使う思考回路は2種類あります。
ひとつ目が『速い思考』
瞬間的に自動で行われる思考。直感もこれです。
初対面の人に何だか嫌いだなと思ったり、突然大声が聞こえた時にどこから聞こえるか探す、など
ふたつ目が『遅い思考』
熟考して導き出す判断。理論的に考えており脳のエネルギーを大量に消費する。
将来の道を決定したり、情報を集めて比較しながら決定をする時
ミスが起きる時というのはたいてい『速い思考』のみで行動した時です。
解決策
どんなに対策をしていてもミスが起こることはあります。
そんな時には適切な対応を取り、被害を拡大させないこと、同じミスを繰り返さないことが大切です。
ミスは改善のチャンス、その改善がよりよい仕事に繋がると考えましょう。
①ミスに気付いた時点で速やかに上司に報告して対策をとる
ミスに気づいた時『やってしまった』『怒られるのが嫌で報告するのが怖い』と思う気持ちはすごくよくわかります。できればなかった事にならないかなという気持ちが生まれることもあります。
しかし、ミスはできるだけ早く対処するに越したことはありません。より大きなミスにつながるのを防げます。
②みんなで事例を共有する
自分がしたミスというのは他の人もミスをしやすいポイントです。
それを共有することで同じミスをなくすことができます。
ヒヤリハットやインシデントレポートは記載すると自分だけでなくみんなの為にもなるのです。忙しい業務の中で報告書を作成するのは大変ですが書式に沿って事実だけをまとめて記載しましょう。
また他の人が起こしたミスも自分事と捉え、把握することでミスの予防につながります。
➂精神論ではなく具体的解決策をひとつ出す
ミスを起こした時によく『以後気をつけます。もっと注意します。』と言う場面を見ますよね。本人は本気で絶対に同じミスはしないと心に誓っていることは間違いないと思います。でも冒頭でお話したとおり人間の脳は忘れやすい仕組みになっているのです。どんな決意も簡単に忘れていくのです。
なので精神論よりも『明日から声に出して確認する』と具体的解決をひとつだけ出して実行することの方が有効です。解決策は簡単に実行できる内容にすること、たくさんしようとしすぎないことがポイントです。
まとめ
私たちの脳はミスを起こしやすい仕組みになっています。
あなたが仕事ができないからでも、要領が悪いからでもないので安心して下さい。
このミスの仕組みを頭の片隅に置いて、対策を取れるようになるとミスは減らすことができます。
何かひとつ小さなことから実践してみて下さい。
そしてミスを100%なくすことは難しいです。そのことを理解し、ミスを起こした時に誠実に対応することでワンステップアップした自分になれます。
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